Thanks! 20k Hits!

公園広場で笑う惣流嬢

カウンターが2万を越えてから一月ほど経ってしまいました。
正直な話、「次の記念イラストは3万Hit以降にしようか・・・」とも思っていたのですが、
気が付くとイラストに「2」と書いていました。キャラクターの選択を誤ったかもしれません。(笑)
2万Hit・・・ 感謝。
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おまけFanFic ある青い空の下で  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2003/11/28修正版

 時は11月。といっても常夏の第三新東京市だ、雪などちらりともしないし、暑い。
 日差しがコンクリートをじりじりと焦がしてゆくなか、アスカはスポーツ用の半袖シャツをざっくりと着こなして、葛城宅の玄関に立った。
 グリーンクリスマスの準備に余念のないDAI−3ショッピングプラザへと出掛ける予定だ。

 シンジはこの時、空になった3人分の朝の食器を片付けながら、久しぶりに訪れた予定のない時間をどうやって過ごそうかと思案していた。近頃の彼には、黙っていても何かと用事が舞い込む。ひねてはいるが、元来は付き合いの良い彼であるから、尚更こういう日は珍しいのだ。
 けれども今日は、ケンスケはお馴染みとなった“新横須賀詣で”に勇んで出掛けており、電話に出たトウジは、溜まりきった家事を一気に片付けるのだという。分担した分はきちんと片付けろ、と妹に釘を刺されたらしい。一人でぶらっと散歩に出るには、すこし日が高すぎる。
 そこで、読み損ねている音楽の雑誌でも手に取れば、多分あっという間に夕飯の買い物に出掛ける時間になるだろうと目星をつけた。

 ルームメイトの暴風少女が居ない葛城家は急に静かになるから、読書にはうってつけだろう。アスカは確かに綺麗だけれど、普段からの騒動に巻き込まれていれば、差し引きで赤字なんだよな。と考えるのは、シンジの幼さなのか達観なのか。
 と、二の腕をむんずと掴まれた。
 「何やってんのよ、あんたも出掛けるの。ほら、」
 「? 一人で行くって、夕べ言ってたじゃないか」
 「気が変わったの。どーせ暇なんでしょ、付き合いなさいよ。2分で仕度することっ!」
 「そんな、無茶な」
 持ち合わせの服に首を捻りながら、部屋へと入る。見るとベッドの上には外出用の服が一揃い、センス良くまとめられて置いてあった。“感謝しなさいっ!” とアスカの似顔絵付きの置き手紙まで乗っている。いつの間にこんな事したんだろう、相変わらずアスカはやることが突飛だ、と感心しているところへ「早くするっ!」と催促。
 やれやれと、慌てて着替え、二人は連れ立って街に出た。



 この大型複合商店は、毎年新しいテーマに基づいて趣向を凝らした飾り付けをすることで知られている。
 スピーカーからはこのシーズンに特有の歌が流れ、色鮮やかなディスプレイが電灯と陽光の下でその出来栄えを競っている。日曜ともあって人出は多く、シンジは目眩がする程だ。その一方でシンジの気に掛かってきたのは、同居人の仕草だった。

 彼女は煌びやかな品々の間を目を輝かせて歩き回り、時おり食い入るように見つめている。必死で買い物をしている、という風情で、傍目にはとても微笑ましく映るだろう。
 必死に? こんな風に熱心に買い物をする少女だったろうか。
 まるで商品と自分を競わせるようにして、値踏みをするのがアスカではなかったか。
 それはシンジの、小さな違和感だった。

 「シンジ! これなんかどう?」
 「ん? ・・・別のにした方がいいと思うよ」
 「むか。 何でよ?」
 「もうちょっと生地のいいやつ選ばないと。洗濯したらすぐ傷んじゃうじゃないか」
 「何よー、もう・・・」
 ふ、とアスカの表情が淋しげに沈んだ。

 「アスカ、何か心配事でもあるの?」
 「え?」
 「何かいつものアスカと違う気がする」
 「 」
 アスカの反応が僅かに遅れて、シンジは自分の予感を確信した。嫌な予感は、外したことがない。
 と思ったのだが。にやりと笑われた。
 「今の、一寸ファーストに似てたわね。…口調がうつったんじゃない?」
 「え、あ?」
 「あったり前でしょ。心配事なら多いわよ、少なくともあんたよりかね」
 「・・・あ。そりゃそうだろうけど。あの、そうじゃなくて」
 外された。いや、シンジが外したのかもしれない。
 誰かの不安を映すことなど望めないほどに、彼の心は乱れてしまったから。
 妙にうろたえてしまった自分自身に驚いているシンジを置いて通りに出ると、アスカはこの街に降ることのない雪を模したモニュメントの前に立つ。

 「ここの飾りってさ、相当手が込んでるわよね。なんていうか・・・」
 「芸術的?」
 「どっちかっていうと即物的だけど。ね、短期間で凄いと思わない?」
 「こないだハロウィンが終わったばっかりだっけ」
 シンジが苦笑すると、
 「デパートって、いっつもお祭りしてるでしょ。だから賑やかで好きよ、あたしは」
 そう言ってアスカが笑った。
 「いつもと違うのも、あんたを連れてんのも、その所為。楽しんでるのよ、分かる?」
 うーん、と伸びをして、少女は にっと笑った。
 「だからいちいち気にすんじゃないのっ。そんなことは忘れなさい」
 いつも通りの笑顔。
 それとも初めて見る笑顔だろうか?
 心配事は多いのだという。けれども、アスカは楽しんでいるのだと言う。
 本当はどちらなのか。判じがたいその笑顔に、シンジも曖昧な笑顔で答えた。
 「そういうものかな」
 「そういうものよ」

 確かに、この場所に散りばめられた雰囲気には、人を浮かせるものがある。
 それは虚飾だと指摘するよりも、その中に一片の真実を見ようとする信心が、祭りの礼儀だろう。
 シンジはそう納得すると、状況を楽しんでみようという気になった。

 「そういえばさ。アスカとここへ来るのは2度目だね。」
 ふと思ったことを口にすると、彼女は悪戯をする顔でシンジの目を覗き込んだ。
 「30点。あんたじゃ、そこで精一杯かしら?」
 「ふつーにそう思っただけじゃないか。何か気に触ったなら謝るけどさ」
 「ぶー 理由を考えずに謝らない 減点5ね」
 幾つかの買い物を済ませると、2人はDAI−3の中に設けられた広場へと入った。その片隅にある、一際見事な花壇の前で、アスカは一枚のリーフレットを取り出して見せた。何それ?とシンジが問うと、さっきのヒントよ、と答える。
 「欲しい?」
 「別にどっちでもいいんだけど」
 「・・・・・・」
 「いえ、欲しいです」
 「よしっ♪ 条件があるわ。破格の二つこっきり」
 「・・・・・・」
 「何笑ってんのよ。一つ、ここでチェロを弾くこと。」
 「はい?」
 「チェロよ。あんた弾けるでしょ」
 「弾けるけど、ここで?」
 「そうよ。ほら」
 そう言ってハイビスカスと向日葵の間に手を突っ込むと、アスカはそこからシンジのチェロケースを取り出して見せた。シンジは言葉も無い。
 「アスカ。いつの間に僕のチェロ持ち出したんだよ」
 「さていつだったかしら?あんたがボケボケしてるから気づかないだけよ」
 「練習もしてないのに 何もこんな所で・・・」
 ケースを受け取ったシンジは、更に眉をひそめた。花壇の中にあったのに汚れていない。いや、最近は何かと忙しくて、埃を被っている筈。なのに、縁の金具まで綺麗に光っている。シンジの顔が一度伏せられて、上げられた。
 
 「わかった 二つ目の条件は?」
 シンジが聞くと、アスカは考え込むそぶりを見せた。考えてなかったというよりは、どれを言うべきか迷っている様に見えた。
 「アスカが最初に思ったのでいいよ」
 「何であんたが注文つけてんのよ」
 「ウエイターだって注文聞くときオススメくらい言うだろ。あんまり考え込んでると、却って勿体ないよ」
 なるほど。アスカは大きく頷くと、弾き終わったら、来年もあたしに聴かせる って約束しなさい。と答えた。
 そんなことなら訳ないや、でも今度は別の場所で弾こう。そう決めて花壇のヘリに腰を下ろすと、弓を手に取る。
 ざわめきの中で弦を調えるためにシンジが目を閉じると、アスカはシンジの脇に件のリーフレットを差し込んだ。

 シンジのチェロが音を奏でる。

 シンジは古い旋律に身を委ねながら、徐々に自分の感情を乗せていく。
 うねり、たわみ、まるで波の上を飛ぶ鳥のように



 ・

 広場に カロン と鐘の音が鳴った。
 12時の時報。弦の奏でる残響を最後まで確かめてから、シンジはゆっくりと両目を開いた。
 目の前にアスカの姿は無かった。買ったばかりの荷物もない。
 どこへ行ったんだろう、と見回すと、ゆっくりとした拍手が上から降ってきた。

 「前に聴いた時とそうは変わってないけど、まあまあね。」
 などと評をつけながら、広場を見下ろすスロープの上からアスカが降りて来る。いつのまにそんな所へ行っていたんだろう、相変わらずアスカはやることが奇抜だ。そうは思うが、いろいろと仕掛けの多い問答を挑んでくる彼女を相手にする時には、あまり細かい所は気にし過ぎない方が良いと学んでいる。そのアスカはシンジの目の前にやって来た。問題の答案を再提出しよう。

 「アスカとここへ来るのは、一年ぶりだね」

 そう、ちょうど一年経っていたのだ。以前は確か、学校の帰りに女の子グループの荷物持ちとして連れて来られたのがここ、出来たばかりのDAI−3ショッピングプラザだった。

 ちょっとびっくりした顔のアスカに、続けて言う。
 「来年も、チェロを弾こうと思うんだ。その時はまたアスカに聴かせるよ」
 そう言ってから、シンジはぎょっとした。アスカが使徒の開けた口でも見るような顔で彼を見ている。
 「な、なんだよ」
 「あんたホントにホントのシンジ? リツコの作ったニセモノとかじゃないでしょうね?」

 そのままむぎゅぅ とシンジの頬を抓る。アスカの握力は100を超えるので、かなり痛い。
 「い、痛いって、アスカっ」
 「よく覚えてたわね。・・・意外だわ。そうね、55点ってトコかしら」
 「さすがに思い出すよ。ヒントもあったし」
 「ふぅん?」
 「それよかアスカ、痛いよっ」
 「何よこのくらいで、だらしがないわねぇ」

 泪目になりながら大騒ぎをしていると、スロープの上から声がかけられた。

 「アースカーっ、何やってんの? あ、そこに居るの、碇くん?」
 クラスの女の子たちだ。アスカが手を振り返す。
 「ごめーん。ちょっと待っててーっ」

 シンジは脇に置かれたリーフレットをポケットにしまう。去年のクリスマスの、催し物案内だ。
 表紙に大きく、クマのぬいぐるみの写真が使われている。
 「ねぇシンジ?」
 「なに?」
 「あたし、みんなと買い物してくるから、4時にここで待ち合わせましょ。去年見たかった展覧会、どうも毎年やってるみたいなのよ」
 「? あ、うん。わかった」
 「・・・言っとくけど、今日は特別に連れてってあげるんだからね。花壇とチェロと一年前のリーフレット、合わせ技でぎりぎり及第点。そういうこと。わかった? じゃあね」
 「???」


 走り去ったアスカの背を見送って、呆けていたシンジはとりあえず荷物を片付け始めた。といってもチェロしかないのだが、これを持っていては展覧会には邪魔だろう。コインロッカーには入らない。だから案内所のスタッフに頼み込んで、預かって貰おうと決めた。
 そしてはたと我に返る。
 (あの約束って、まるでデートの待ち合わせみたいじゃないか・・・?)
 深く考えちゃだめだ。
 そう自分の思考をまとめると、シンジは広場から出ようとして  ふと上を見上げた。
 ただいつも通りの、頂点に差し掛かろうとする太陽と青空が広がり、ぽこぽこと雲が浮いている。
 それらをしばし眺めやってから、ケースを抱えなおして歩き出した。
 暫くお店を見て回って時間を潰そう、それから、良いのがあったら、アスカにプレゼントでも用意するのもいいかもしれない。
 クリスマスというのは、そういうイベントだった筈だ。



 ごゆっくりいってらっしゃいませ、という受付嬢の笑顔に見送られて戻った花壇の前では、約束の15分前だというのに「おーそーいーッ!」とアスカが両手を腰に当てて立ちはだかっていた。
 それでもその後、たいした問題もなくコンフォート17に帰ってこられたのは、ひょっとしたらDAI−3が全体に湛えたお祭り気分のお蔭だったのかも知れない。何か一から十まで仕組まれていたような気もするシンジだったが、唯ひとつ気にしたのは、この小さなお出かけの中のアスカの言葉。
 「聞き覚えのあるチェロが聞こえたから、まさかと思って来てみたら大当たり。あたしの耳の良さに感謝するよーにっ」と言う。まぁ、それならそれでいいか、と思って、しばらくすると忘れてしまった。部屋の灯りを消して思うことは一つ。
 たとえどんな明日が来ても、今日と言う一日を過ごせたことに感謝しよう。そう思った。





底本に欠けている巻末の、赤表紙の本による挿話

 赤い、継ぎはぎだらけのプラグスーツ姿で、惣流アスカ・ラングレーは目を覚ました。大きな楡の木の下、傍らに浮かぶ透き通った魚に目をやる。アスカの右の手は、その薄い色の鱗の中に沈んでいる。小さな水晶の間に挟まれて身動きの取れなかった魚が、すっと空へと浮かんで、 やがて見えなくなる。

 「ひどい夢」

 そう呟いて柔らかい苔の上に身を起こす。三度自分の体を得てから一年、さすがに傷みが目立ってきた改造プラグスーツの具合を確かめてから、半透明の魚の中で見た夢をゆっくりと思い出す。未練たらたらの・・・誰の夢なんだか。
 ほんの些細な、ちいさな夢だった。使途の襲来は数ヶ月に一度のゆっくりとしたペースで。つまりそれだけ、お互いに相手を使って暇を潰して遊ぶ機会があった、という嘘の上に成り立った小さな一幕。それをどうしても演出しきれなくなって、あの夢は水晶の枝に挟まったままだったのだ。けれども、自分が介入しなくてもあの魚は、きっと筋書きを見つけ出したに違いないだろうことも想像がついた。では何故あたしはそれに手を出したのか?
 魚に触れていた右手を開くと、そこにはDAI−3で夢の中のシンジと買ったイヤリングが握られていた。その片方は、演奏の前にシンジのポケットに滑り込ませておいた。二つとも入れると流石に気付かれるだろうからと一つ取っておいたのだが、我ながら妙なものを持ち帰ってきたものだと、ひとりごちた。

 うんっ、と伸びをして立ち上がると、すこし手足が長く感じられた。これも夢のせいだ。魚の中で動いていた時の柳葉のような少女の体は、ふっくらと熟成の色を加えているというのに。だれも居なくなったこの世界では、持て余してしまいそうだった。

 「シンジ、チェロ止めてたら承知しないからね」

 少年だった彼と最後に別れてから、どれだけの時間がこの赤い世界に流れたのかは、彼女には分らない。自分から3メートル離れたところで中庸の笑みを浮かべていた少年の顔を思い出して、アスカはしばし、追憶の中の弦の音をたよりに、耳を澄ませた。



< 終劇 >





解説
 口の足らないところを自分で解説するのも無様な話ではあるのですが、特に後半、突然なもので。

イラストにSSがついた理由
 アスカ嬢のイラストを描きはじめてから困ったことが一つ。
 「誰々が何々しているところ」まで決めないと筆が進まないのです。初めから絵が頭に浮かんでいないと難産になります。
 で、ぱちぱちと、思い浮かぶ単語を打ち込んでいって、出来たのがこのSS。
 せっかくなので添えました。
 ここまで読んでいただいている貴方に感謝いたします。ちょ とでも、楽しんでいただけたなら幸いです。

後半の挿話について
 突拍子もないので、少し楽屋内の話しを。
 浮かんだ設定に対して、これはエヴァなのかどうか、自分でも疑問があるのですが。
 公開されてから幾ヶ月。早くも放置の方向に走っている「赤い海から僕らは - その後シリーズ」の番外です。
 
 EoEからシンジと別れ、文字通り孤立無援のアスカは、いくつかの偶然が重なってヒトの肉体を一度喪失します。
 これがギャラリーでずっと以前に公開した、ASUKAと呼ばれる「緑の森」の誕生につながったのですが、それはまたの機会。
 ASUKAの成長と変化に伴って、森のバックアップとしての役目が終わったアスカ嬢の身体データは、再び構築されて森を出ます。ひっそりと森を流れる川に乗ってASUKAの知らぬ間に旅立ち、人類が残した思いの断片が漂う世界を旅する中でのひとコマ。


 本編は二重人格な振る舞いをする?アスカ嬢。後半の挿話を含めると、歴史のパラレル逆行ぎみなアスカ嬢。
 別のお話になっているので、お好きなようにとっていただいて結構です。

2003年11月19日 doodle @ Libra Library

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