ベーオウルフ
妖怪と竜と英雄の物語 サトクリフ・オリジナル7
数々の作品を育む「最古の叙事詩」の再話
『13ウォーリアーズ』という映画があります。原題は"13th Warrior"で、10世紀、イスラム帝国アッバース朝の詩人が、大使として北欧・ヴァイキングの土地を訪れた折に、「“名があってはならぬ悪魔”を倒す13人の戦士」の一人に選ばれてしまい、若い王・ブルバイとその戦士たちの旅に同行するという内容で、マイケル・クライトン著の『北人伝説』を映画化したものです。
文化人である主人公の感性と、戦う王であるブルバイの力強さとがあいまって、とても面白い映画ですが、この「王の悪魔退治」の部分が、叙事詩『ベーオウルフ』を元にしていると知って、この本を手に取りました。
本書は、英国最古の叙事詩とも言われる『ベーオウルフ』の再話です。
著者は、ローズマリ・サトクリフ。伝説の再話も多く手掛けるイギリスの歴史作家で、アーサー王伝説から“史実”を推定した物語『落日の剣』でたっぷり楽しませてくれたこともあって、選びました。
あらまし
物語は、イェーアト王ヒィエラークの大広間で、船乗り達が北のデネ王フロースガールの宮が、<夜の徘徊者>グレンデルに夜な夜な襲われていると話す場面から始まります。
並外れた勇士であるベーオウルフの、青年時代における妖怪退治と、晩年における火竜退治を語る物語です。
義によって立ち、怪物に一人で立ち向かい、得たものは皆に分け与えて常に自分を小さくする。そうして遂に、彼は王国を一生支え続けます。清々しく、誇り高いその姿は、伏線を凝らした現代小説にも劣らず魅力的です。
訳者の解説によれば、サトクリフは叙事詩に多くあったキリスト教的な表現を削り、舞台と時代に合わせて、ゲルマン神話の信仰のもとにあった世界へと書き換えてあるそうです。その見事な見識!
魅力的な“翻訳”がなされた『ベーオウルフ』は、まさに「サトクリフ・オリジナル」と呼ぶに相応しい出来映えです。物語の勇壮さ、古い時代の雰囲気を味わいたい方におすすめします。