魔法の船
きみの勝ちだ、親愛なるレディ。
エンカウント
『歌う船』と『旅立つ船』の面白さから、《歌う船》シリーズを店頭で見かけないか気にしていた。取り寄せれば一息に読めるのだろうけど、書店の棚をチェックする楽しさを味わいながら手に出来た一冊。
あらまし
ファンタジーRPGが大好きなケフと、絵を描くことが趣味のキャリエル。共に知的生命体とのファーストコンタクトに情熱を傾けてきた彼らが降り立った惑星は、あまりに魅力的で、あまりに危険に満ちていた。獣人が耕し、魔術師が支配する。ここは魔法の星なのか?大興奮のケフに、キャリエルはそっと眉をひそめた。
長い時間を共にしてきたブレイン・ブローンチームの、ファンタジーSF物語。
感想
SFの世界に突如現れた魔法の世界。珍妙なちぐはぐ感はぬぐいようも無いけれど、そこを楽しむ作品か。お終いまで一息に読んでしまいたくなる面白さはあるが、どこかで欲求不満が残ってしまったのが残念だ。大まかに作品を振り返ってみる。
この本と同様に、キャリエルとケフも《歌う船》シリーズ既刊の主人公たちと比べて異色のコンビだ。既にチームを組んで14年になる2人は、お互いの欠点も、フォローの仕方も心得ている。出会いは二人の間ではなく外にあるのがこの作品だ。
文章は一人称に近い感覚で書かれていて、視点はブレイン・ブローンチームだけに留まらず、不定期に三人以上の間を移動している。物語を多面的に楽しめる一方、主人公未満の人物にまで入り込んだ所為か中途半端な印象が残った。ケレン味が薄く感じるのも、ヒロイックな物語の登場人物ではなく、あくまでSF世界の住人であるところのギャップなのだろう。
読み終わって印象的なのは、興奮気味のケフを落ち着かせる為にかけられていた、キャリエルの言葉の数々だ。中には辛辣なのもあって結構おもしろい。遠隔地から携帯電話で絶えず連絡を取るような、と言えば、そう、彼女は単身赴任中の旦那の舵取りに忙しい女性なのだ。ヘルヴァともティアとも違うということを押さえておけば、純粋に一時の娯楽として楽しめる。