旅立つ船
エンカウント
共著による、『歌う船』に続く第2巻。
ネット上でシリーズについての感想を見ているうち、「この作品が一番好き」という評価を見かけ、それならばと、勢い込んで購入。
あらまし
考古学探検局研究所所属、サロモン=キルデア文明遺跡調査隊C−121。
考古学者を両親に持つヒュパティア・ケイドは、ある日、未知のウイルスによって全身運動麻痺に追い込まれてしまう。
聡明な頭脳を持ちながら、二度と動かない体に悔し涙を流す少女は、シェル・パーソンとしての新しい体と、可能性を手に入れる。アレクサンダーをパートナー迎えた彼女は、自らの手で発掘調査を行ないたいという望みを秘めて、幾多の任務に当たる。AH−1033の恒星間勤務の幕が開きます。
感想
読み終えて思ったのは、「これはSFのおとぎ話なのだな」 ということでした。
愛らしい少女を襲った悲劇、元の姿を失った彼女は、パートナーとともに世界中を旅して、やがて……といった調子で、古典的なフレーズを下敷きに、一つのエピソードを、SF『歌う船』の世界でたっぷりと味わえる作品です。
作品ごとに物語が一変するこのシリーズですが、私の評価は90点。主人公のティアがしっかりしているため、安心感をもって楽しめました。
ブローンの交代劇も無く、ティアとアレックスのやり取りがしっかりと書かれています。
円熟に差し掛かるヘルヴァとは違い、駆け出しの2人らしいお話です。
もちろん、広大で未知の環境を仕事場とする2人には、危険がつき物です。 ミッションにアクション、そういった要素でも、しっかり見せ場が用意されています。 ブレインに出来ることと、ブローンに出来ることの違い。 特にその「体格差」をしっかりと押さえたアクションは見ものです。
主人公の2人もさることながら、脇役たちの魅力も気に入っています。 個性的で、干渉し過ぎないけれど手を差し伸べることをためらわない彼らは、無辺の宇宙にあっても親交を絶やしません。神経科医のケニーと、ステーション管理者のラーシュは、doodleが是非とも見習いたい大人です(笑)。
ティアの幼少期が語られる冒頭部分は必見かもしれません。 年に見合わない彼女の生意気ぶりは、とても面白いですから。
ハードな読み物に疲れたら、この話がうってつけ。気分転換に良い一冊です。
蛇足: エニックスが出版するロボットマンガ、『ツイン・シグナル』のノベライズ版の中には、あとがきや扉などで、このシリーズに触れている個所がいくつかあります。 著者の北条風奈氏は大のSFファンだそうで、『旅立つ船』のヒュパティアには、並々ならぬ思い入れがあるのだとか。 同ノベルシリーズは電脳空間の詳細な描写など、本編とは一味違った楽しみのある読み物です。 あわせて楽しんでみてはいかがでしょう。