紫の砂漠
繊細さ、幻視、陶酔、残酷さ。『紫の砂漠』は、少年の、仕事と恋愛という未知のものに胸を膨らませる心情を描いた、感覚のファンタジーだ。
主人公は、辺境の村に住む、純朴で少し変わり者の少年。彼は人々が畏れる「紫の砂漠」の奥地に、どうしようもない憧れを抱いて暮らしています。私たちは、彼の本能的で、恐れを知らない行動を通じて、砂漠の周辺に点在する村の生活と、社会のシステムに托された何者かの思いに、触れて行くことになります。
もちろん、 SF的な要素も見逃せません。主人公が住む世界では、職業選択の最初の決定権を社会が握っています。その代わり、性別の決定権(!)は個人に委ねられていて、最初の恋に落ちたとき、恋人との合意の上で、男女の性に分かれるのです。この「性役割の決定」はとても幻想的に捉えられていて、物語の中の誰にとっても、大きな転機になっています。
彼の行動は、作中の誰の言葉にも批評されず、ストレートに読者の解釈に供されます。
だからこそ、これは読み手の経験に素直に響くところによって、どのようにも読めるでしょう。きっと、年月を経た読み返しに耐える物語だと思います。
今の生活、将来の望み、恋、仕事。
そんなものを、少年の瑞々しい視点からしっとりと眺めたい時、この小説はお薦め。
決して派手でも歓楽的でもありませんが、繊細な物語が、きっと心にとまる筈です。