鵺姫真話
エンカウント
ソノラマでの『星虫』『イーシャの船』加筆復刻と併せて刊行された、岩本氏の10年振りの新作。『星虫』のちょっと後の話です。
あらまし
ある女性の手腕によって発足され、国連の元で遂行される宇宙への進出プロジェクト、『進化計画』。そこに、宇宙船パイロットとして訓練を受けながら、緑内障を患ってその中心から身を引いた少女がいる。
計画段階からプロジェクトを見てきた川崎純は、失意の中で実家である姫森神社へと帰郷を果たした。
忘れていた学生としての日常へ馴染んでゆく純の前に現れたのは、蝙蝠の羽を持つ巨大な生首。強い力を持つ祟り神として畏れられる、姫森の祭神・鵺姫<ぬえひめ>の怪異が、純を思いも掛けない場所へと連れて行く。
姫様に掛けられた願いと、変異に巻き込まれた少年少女を描いた物語。
感想
作品ごとにネタを変えてくる星虫シリーズ。今作はタイムトラベルもの。読み始めはとても混乱しました。ただ、それすら登場人物の混乱とリンクするようで、今では結構お気に入りに。
物語の密度がぐっと増して、読みごたえのある作品になった印象。
こういう時系列が錯綜する物語は、えてして膨れ上がった情報をいかに整理するかが一つのネックです。その点、読み終えた時点で混乱なく把握でき、加えて、岩本作品に特徴的なハッピーエンドを崩すことなく、きれいに収まっています。
内部で円環構造をもった物語で、基本的に好みなタイプ。枝葉を気にさせない大らかさが文章にあって、予定調和的な側面が鼻につくこともなく楽しめる。エピソードが集約されるカタルシスを味わいながら、安心して本を閉じることが出来る一冊。
登場人物たちも、良い意味で二面性を持って描かれていて、感情移入をしていてなかなかに楽しい。
姫様の傲然とした態度ががらりと変わって、純と区別がつかなくなるあたり、微笑ましいです。
『星虫』にあった一寸うっとり気味の感情描写も、細やかな表現で全体に馴染んでいて、気持ちの良い仕上がり。
『星虫』があくまで日常の延長にある物語だったのに対して、キーである「鵺姫」の正体について仮説を立てながら、二転三転してゆく展開は目まぐるしい。描写の荒っぽさと感じさせる一方で、それぞれの個性を演出している。冴え渡る推理を披露するタイプとも違う印象で、興味深い感じ。
特に後半のエピソードのつまり具合には驚かされましたし、嬉しい限りでした。最後の数ページになって、場面転換と種明かしの連続。こういう本は少し得した気分です。
要素をぎゅっと詰めてあるあたり、岩本氏の熱の入りようが窺われるようです。