イーシャの船
エンカウント
この本の同シリーズである『星虫』を読んだ2ヵ月後、ファンサイトのCOSMIC BEETLE Ver.2(閉鎖されてしまいました…涙)で存在を知って、買い求めました。キャッチコピーは「現代に蘇った瓜子姫物語」。
『イーシャの船』のあらまし
岩本氏による幻想小説。舞台は『星虫』のちょっと前。
仁王様のような風体の貧乏青年・年輝は、気は優しくて力持ち。頼まれて立ち入った深夜の工事現場で、彼は宙に浮かぶ奇怪な『鬼』に遭遇してしまう。
二転三転する状況の中で気付く、彼の夢、幸せとは…。
感想
シリーズへの伏線が幾重にも張られた序章と、闇夜の怪奇物語といった趣きの滑り出し。出だしから好感触で、ぐいっと引き込まれました。
他人より何かに長じているが、さりとて幸せというわけでもない登場人物たち。次第に家族同然となっていく彼らをほのぼのと楽しむも良し、シリアスに組み上がってゆく状況にはらはらするも良しの良作。全体に絵本をめくるような楽しさがあります。
登場人物たちのささやかな願いや思惑が、大きく社会的な影響を及ぼしてゆくダイナミズムはこの巻でも健在。「妖怪」と「人間」の対比と葛藤が、ラストシーンの幸福度を、最高潮に引き上げています。
少し、語り過ぎでごちゃごちゃした印象もありますが、登場人物からそれぞれの物語を読み取れる厚みのある作りで、2度3度と読み返せること請け合いです。
因みに、私的エンディングテーマは、「♪いざ歌え、いざ祝え、楽しきこの夜〜」。いや、もう最高。皆が世の救い主にならんことを。柄にも無く、そう思えてしまう読後感の良い作品です。