歌う船
エンカウント
暇を潰しに書店へ入り、「舟が歌う」という幻想的なフレーズに目を引かれました。次に、解説文を読んでみて、この作品がSF嫌いの女性にもウケたと書かれていることに興味を持ちました。スペオペではないんですね。
数ページめくって、先天性の身体欠陥から宇宙船を体とする主人公にショックを受けて会計へ。
あらまし
生まれながらに機械腕や車輪の手足を動かしてきたヘルヴァは、16歳の誕生日に偵察船として就職します。 彼女の趣味は、歌うこと。チタンの甲殻に入ったシェル・パーソンには極めて珍しい特技でした。
任せられる奇特な任務。様々な光景。そして、多様な乗務員、乗客たち。ページをめくる毎に、奇想天外な世界が彼女を待ち受けます。
SFを舞台に、奇妙なひと時が楽しめると同時に、一人の女性を描いた作品でもあります。
感想
「船である人間」と「思考する船」とでは、ここまで違った世界が書けるのかと、驚きました。
人であると同時に機械であることが生むジレンマ。
強化人間でも、人造人間でも不可能な心情は、とても魅力的でした。
彼女が切望したのは、虚空の中で、ビジネス抜きで自分と時間をともすることが出来るパートナー。
満たされ難い欲求を抱え、任務中の多くの可能性から選び取られる行動は一貫性を保ちつつも、やはり逡巡を伴います。
心の揺らぎと、奇天烈な世界の両方を楽しめる作品です。
極めつけに印象に残ったのは、ガス惑星、ベータ・コルヴィでのオペラ上演任務です。
天と地の区別のない世界で繰り広げられる奇妙な演劇。
肉体を異星人のそれとすり返ることでおきた、思考方法の変容の不気味さが
演技を通して交わされる言葉によらない交流によって強調されていて、私の3大奇天烈小説体験にランク・インしています。
読むことの欲求を十分に満たしてくれる作品でした。
この作品の最初の一遍が執筆されたのは、1961年。
なんと、テープレコーダーさえ一般では見かけなかった時代です。これには驚きました。
日本は8mm全盛期。かろうじて『スパイ大作戦』のなかに、テープ式の指令書が確認されたそうです。
1980年頃にようやく、セパレート式のビデオカメラが出回りだしたということですから、後は推して知るべし、です。
SF小説、侮り難し。